2010年02月18日

『号泣する準備はできていた』…江國香織

『号泣する準備はできていた』…著者;江國香織 新潮文庫



短編集です。2004年の直木賞受賞作である同名の作品も収録されています。

『短編集、といっても 様々なお菓子の詰め合わされた箱のようなものではなく、ひと袋のドロップという感じです。』

とは、あとがきでの作者自身の言葉。
そのこころは『成分は同じで大きさも大体同じ』だからということです。
その言葉にたがうことなく、大体同じテーマを同じくらいの長さでまとめた短編によって構成されています。

ほとんどの短編の主人公が中年女性。
そしてほとんどの作品が、恋愛がくたびれてしだいに損なわれていく倦怠感を取り上げています。

その様子がもっともよく描かれた表題作のほか、

不倫相手への幻想が、ちょっとした一言で崩れ去ってしまう『そこなう』。
夫婦の危機、その一瞬を切り取った、『煙草配りガール』。
離婚直前の夫婦の会話を描いた、『溝』。

『じゃこじゃこのビスケット』と『住宅地』だけは少し変り種でしょうか。
前者は十代の女の子が体験した奇妙な初デートの話、後者は住宅街に身をおく人々の心理を1つ1つ取り上げた、短い群像劇になっています。

作者の言葉どおり、各短編は20ページくらいでまとめられているので、ちょっと手の空いた暇なんかに手軽に読むことが出来ます。

女性特有の心理を描いているので、男性には退屈かもしれません。
posted by kbk-mzp-ck9000CP at 11:36| 東京 🌁| Comment(0) | 書評・ストーリー物・短編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月27日

『小川未明集 幽霊船』…小川未明

『文豪階段傑作選 小川未明集 幽霊船』…著者;小川未明 ちくま文庫 



童話で有名な小川未明です。
『のばら』なんか有名ですね。
だけどこの方、実は怪談なんかも書いちゃってます。
僕もこの本が出るまでは知りませんでした。
どうもこの人、膨大な作品を遺しているらしいです。
童話はその中の本の一部だったんですね。

高い描写力に裏づけされた美しい文章が、この著者の特徴。
この本の収録作品でも、その点は遺憾なく発揮されています。
というよりは、そっちがメイン、といったほうがいいでしょうか?
スティーブン・キングのような、明確なストーリーを期待すると、ちょっとあてがはずれます。

出来事の最初から最後までを分かりやすく語る、というタイプの作品はほとんどありません。
読者が読み始めたとき、物語はすでに始まっています。

例えば、『悪魔』という短編。
疫病を撒き散らす、謎の『黒い男』にまつわる恐怖譚です。
しかし、『ある村にどこからともなく男がやってきて…』という説明は一切なく、すでに村人たちが『黒い男』に対して策を練ろうとしているところから、話は始まっています。
しかも村人たちは、もうすでにその男の能力まで、結構細かいところまで知っていたりするのです。
そして結局、その男の正体も明らかにされないまま、物語は終わります。

全体を語るのではなく、エピソードの一場面だけを切り抜いて語る手法です。
あとは読者のご想像にお任せします、といったところ。

また、こまかな描写だけを書き散らして、はっきりと場所の説明をしないのもこの著者の特徴。
同じく、『悪魔』からですが、突然舞台が切り替わるシーンがあります。
そこでは、新しく提示された場所がどこなのか、はっきりとは書かれていません。
煙とか、ブリキ屋根とか、燃える悪質の石炭とか、そういった部分部分の描写で、かすかにそこが工場である、ということをほのめかすだけです。
そのため、ぼーっと読んでるとそこがどういう場面なのかわからなくなります。

多分、読者が簡単に読み飛ばしてしまわないように、意識的にやっていることなのでしょう。
こういう『わざと読みにくする』テクニックは、書きなれたベテラン作家の間では、よく使われる手法です。

現代風の、小さくまとまったストーリーテリングに慣れた人は、戸惑いを覚えるかもしれません。上級者向けです。

ただ、こちらから積極的に想像力を働かせて読んでいくと、登場人物たちの恐怖が、まるで自分のもののように感じられてきます。

編;東雅夫


――参考までに。

『小川未明童話集』 新潮文庫

ラベル:小川未明
posted by kbk-mzp-ck9000CP at 14:42| 東京 ☀| Comment(0) | 書評・ストーリー物・短編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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