2010年01月22日

『復讐はお好き?』…著者;カール・ハイアセン

『復讐はお好き?』…著者;カール・ハイアセン 文春文庫



ついでにもう一作、ミステリー行きます。
知る人ぞ知る、ハイアセン。
この人も、当たり外れが大きい方かも知れません。
ジャーナリスト出身で、一度はピューリツァー賞の候補にも上がったほどの切れ者。
フロリダ生まれのフロリダ育ち、そしてそのまま、フロリダ・ミステリの巨匠となってしまった人です。
あ、フロリダ・ミステリっていうのは、僕もつい最近知ったのですが、どうもそういうジャンルがあるらしいです。確かにフロリダという土地は、ちょっと独特なものを持っていますから、そこを舞台にした物語も、自然と一風変わったものになってしまうのでしょう。
シャーロック・ホームズのシリーズが霧の町ロンドンを舞台にすることで、ただのミステリにとどまらない濃厚な世界観を作り上げているようなものだと思います。
まあ、よく知らないことなので深く突っ込むのはやめておきます。そのうち、ちゃんと情報を集めて、皆さんにお伝えできるといいのですが、今はこの辺で。
ただ、物語と地域性とが上手い具合に結びつくと、確かに面白いものが出来上がることがあります。
この作品も、その一つといえるでしょう。
何しろ、豊かなフロリダの生態系を巡る人間たちの思惑が、この物語の核心と深く関わっているのですから。

さて、そろそろ内容の紹介に移りましょう。
この物語、いきなり主人公が殺されるところから始まります。
倦怠期の夫から、豪華客船の外へ投げ出されてしまうのです。
もちろん、本当に死んでしまうわけではありません。主人公の人妻は何とか一命を取りとめ、夫への復讐を決意します。
命の恩人の協力を得ながら、真綿で首を絞めるように夫を追い詰めていく主人公。
夫は慌てふためいて仲間に助けを求め、その過程で彼が妻を殺そうとした動機が明らかになっていきます。

それにしても面白いのは、ダイハードなみのガッツをもつ人妻と、それとは対照的に、哀れなほどヘタレな夫という組み合わせ。
この夫の情けなさ、話が進むにつれてどんどん拍車がかかってきて、いつのまにか作品は、一種のコメディの様相さえ呈していきます。
ただ、それだけで終わらないのがこの作家のすごいところ。
主人公の復讐が完成に向かうに連れて、物語はどんどんそのスケールを広げていきます。
登場人物も増えていくのですが、それで話が複雑になるということはありません。むしろ逆に、全員が一つの方向に向かって突っ走って行くことで、作品そのもののエネルギーが指数関数的に増大していきます。
読後には、映画を見終わった後のような爽快感が残ります。

複雑な問題を単純化することなく取り上げているにも関わらず、パワフルな勧善懲悪の構図で、終始物語をまとめる手腕はなかなか。
その秘密は、どうやら登場人物たちの強烈な個性にあるようです。
上述した夫婦はもとより、理性的で、しかし正義感の強い命の恩人、ファンキーすぎる夫の愛人、変わり者の主人公の兄、乱暴だが根はどこまでも優しい殺し屋と、そんな彼が唯一頭の上がらない病身の老婆。
実に多彩なキャラクターたちですが、そんな彼ら全員に共通しているのは、読者を置き去りにするほどの、驚異的な行動力。
アメリカの人って、皆こうなんでしょうか?
それともこれが、フロリダ・ミステリと呼ばれる所以?いわれて見れば、彼らのカラッとした気質は、どことなく南国的にも思えます。

また、元記者だった著者の、素晴らしい取材力も無視するわけにはいきません。
フロリダの壮大な自然が、目の前に迫ってくるような風景描写も見事。

訳者;田村義進



posted by kbk-mzp-ck9000CP at 02:47| 東京 ☁| Comment(0) | 書評・ストーリー物・ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『今夜は眠れない』…著者;宮部みゆき

『今夜は眠れない』…著者;宮部みゆき 角川文庫


大家をもう一人。
皆さんご存知、宮部みゆき先生です。
『理由』、『火車』、『模倣犯』……。
名前を聞いただけで、数々の代表作が浮かんでくる、日本ミステリ界の重鎮。その作風に関して、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?
おそらくほとんどの方が、(推理物に限って言えば)世の中の暗部をえぐる、重々しい世界観を想像するのではないでしょうか?
社会システムの隙間に落ち込み、苦悩する人々。
そんな中で、歪み、罪を犯してしまう者と、それでもまっすぐに生きようとする者。
そんな彼らの生き方は時にすれ違い、時に衝突し、人間の本性をむき出しにしていきます。そしてその過程が様々な謎を生み出し、撒き散らすことによって、彼女の物語は綴られていきます。
自然、その内容はハードなものにならざるを得ません。

しかし、時に例外があります。

その一つが、この作品です。
宮部みゆきのミステリーなのにも関わらず、軽快なテンポの読後感爽やかなお話です。
発表は1992年。この方、1987年にデビューしてらっしゃいますから、まあ結構初期の作品と言えるのではないでしょうか?
もともと、子供向けに書かれたお話のようです。講談社の青い鳥文庫でも発売されています。彼女の作品に多く見られる、あの重苦しさが感じられないのはおそらくそのせいでしょう。
ところどころに軽いジョークも効いていて、思わずクスリとしてしまうシーンも。

ただ、だからといって、推理の部分も子供向けかといえば、さにあらず。
それどころか読書通さえうならせるほどの、見事な構成になっています。

偶然から大金を手にした主人公一家。しかし物語が進むに連れて、それが、ある『他の目的』のために企てられた陰謀の一部だということが明らかになっていきます。
家族の絆に亀裂の走る中、友人の助けを借りながら、懸命に事件に立ち向かう主人公。次第に謎の核心に迫るが、首謀者の計画も着々と実行されていき、ついに…。

終局に浮かび上がる、意外な人物の共犯。

そして最後の最後に、全ての出来事が、最初から一本の線の上にあったことが明らかにされます。その瞬間の驚きは、読後数年を経た今でも全く色あせていません。

主人公は、元気の良い、典型的なサッカー少年。
対するその相棒は、運動神経がいいくせに将棋部なんかに入っているかわりもの。謎解きの部分は、主に彼が担当しています。
行動的なワトソンと、時々背中を押してやるインドア派のホームズ、と言ったところでしょうか。
謎解きより持ち前のエネルギーで先の展開を切り拓いていく主人公は、今考えると結構新鮮かもしれません。
また、二人の掛け合いから、ハッ、と気づかされる、かつて僕たちが持っていた子供の視点。
本当に、見所満載。巨匠、宮部みゆきの隠れた名作です。

数ある版の中でこの角川版を推したのは、単に表紙が気に入ったからです。おそらく大人の方々には、これが一番買いやすいカバーなのではないかと思います。

また、続編で『夢にも思わない』という作品がありますが、こっちは…うーん……確かに、面白いことは面白いけれど、今僕が上で挙げたような、宮部作品に珍しい見所、というのは失われてしまっています。
ちょっと暗い結末だし。

とまあ、そんなわけで、この『今夜は眠れない』、とにかくお薦めです。
ぜひ一度、読んでみてください。



posted by kbk-mzp-ck9000CP at 01:11| 東京 ☀| Comment(0) | 書評・ストーリー物・ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月21日

アガサ・クリスティー百科事典

『アガサ・クリスティー百科事典』 早川書房 クリスティー文庫


クリスティーが好きです。
といっても、全部が全部ってわけじゃありませんが。
やっぱり、多作な作家なだけあって当たり外れもそれなりにあると思います。
何作かは、状況の説明と、事件と、トリックの開示とが単調に記述されているだけで、大してはらはらすることもなく終わってしまったりもします。
個人的には、そういった作品は初期のものに多い気がします。だから僕は彼女の小説は、後期のもののほうが好きです。

……なんていうクリスティーファンを意識して作られたであろうこの一冊。本屋で見て、思わず衝動買いしてしまいました。
内容は、なかなか充実しています。
ポアロ、マープルシリーズ、その他の短編など、一連の作品とその事件を余すところなく取り上げつつ、未読の読者にも配慮してトリックの説明などはちゃんと伏せたままにされています。
作中人物事典、アイテム事典、(項目別に分かれています)などもあります。それぞれの記事に読み応えがあり、なかなか楽しいのですが、少し項目が少ないような気がしないでもありません。
これでページ数が多ければ、マニアックな作りになってディープなファンにも満足の一品になっていたんだろうけど…。

ただ、その分お値段は840円と、なかなかリーズナブルです。
クリスティー入門者〜中級者にはお手ごろな一冊かもしれません。
未読ですが、同シリーズで『アガサ・クリスティー99の謎 』という本もある様子。



posted by kbk-mzp-ck9000CP at 19:33| Comment(0) | 書評・ストーリー物・ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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